2019/12/08
我輩は黒猫である番外編「夏の思い出」6(終)
「夏の思い出」って、今は冬ですが…。一応これでおしまいです。
我輩は残りの夏を空調管理の行き届いている
部屋で過ごした。日差しによる思わぬ高温スポ
ットを恐れたジェームズが家中のカーテンを遮光
断熱のものに代えたのだ。
元々暑さが苦手な我輩としては結構なことなの
だが、あまり日光にあたらないと毛皮が湿気る
ような気がする。そのせいか我輩は自分できち
んと毛繕いしているというのに、ポッター一家が
我輩が油断している隙を狙って我輩を濡れタオ
ルで拭くようになった。非常に迷惑である。我輩
の水嫌いを知っているので迅速に清拭は済まさ
れるが、
「さっぱりしたね」と言われても、不愉快なだけで
ある。むしろ油分がとれて毛艶が悪くなってしま
った気がする。
「セブルスはね、僕の帰りを待っていたんだと思
うんだ」
これが今回の事件に関してのジェームズの結論
だ。我輩はソファのお気に入りのクッションの上で
寝ているとポッター一家に思われていたが、ちゃ
んと起きて聞いていた。そして我輩は地獄耳であ
る。
「おそらくね、あの窓から僕が帰ってこないかと思
ってずっと見ていたんだよ」
見当違いも甚だしい妄言であるが、ジェームズは
頗る真面目な口調だ。ちなみに我輩がお気に入
りだった窓台は見晴らしがよく、隣接している公園
の借景が楽しめる。冬には池に白鳥が飛来し、我
輩もその優美な姿に狩りの空想なぞすることもあ
った。窓台で日光浴をしている時にジェームズを思
い出すことはないし、公園にいるジェームズを見か
けたこともない。
「やっぱり一人でお留守番だと寂しいのかしら」
ジェームズの戯言を受けてドレアまでくだらないこと
を言い出した。
「しかし、セブちゃんは人嫌いだよ」
チャールズは大抵ドレアに賛同するというのに珍し
く反論した。
「あら、そうでしたわね」とドレアは納得したが、
ジェームズは、
「他人は嫌いでも僕は別だよ。セブルスは寂しが
り屋なんだ」
と何故か自信満々に断言した。
まったくもってジェームズの思いこみの激しさには
閉口するが、今回の件で我輩の身に何かおこった
場合にはジェームズの心配をする必要があること
が明らかになった。頭の痛い問題ではあるが我輩
は猫であるので、どうすることもできないのである。
いつのまにか傍にいたジェームズの大きな手が
我輩の背を撫でている。寝たふりをしていた我輩は
目を開けていかにも不満そうにジェームズを見上げ
てやると、ジェームズは嬉しそうに笑ったので、今
日の我輩の仕事はおしまいである。(終)
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